被害者 | 40代会社員男性 |
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事案 | 過労自殺 |
獲得金額 | 8364万円 |
項目 | サポート前 | サポート後 | 増額幅 |
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治療費等 | – | 約80万円 | 80万円 |
休業損害 | – | 523万円 | 523万円 |
葬儀費用 | – | 約86万円 | 86万円 |
慰謝料 | – | 約3045万円 | 3045万円 |
逸失利益 | – | 約6727万円 | 6727万円 |
遅延損害金 | – | 約795万円 | 795万円 |
損害小計 | – | 約1億1256万円 | 1億1256万円 |
過失割合控除 | – | – | – |
素因減額 | – | 約-523万円 | -523万円 |
既払(労災) | 約-1555万円 | 約-1555万円 | -1555万円 |
既払(年金) | 約-814万円 | 約-814万円 | -814万円 |
解決金 | – | 8364万円 | 8364万円 |
獲得額合計 (解決金+労災・年金からの支給金) | – | 約1億733万円 | 8364万円 |
ご相談内容
うつ病による過労死(過労自殺)の案件です。被災者の奥様より、以下のような相談をお受けしました。
- 夫が自殺した。
- 夫は、労働時間が尋常ではなかった。毎月100時間以上の時間外労働(残業=週40時間を超える部分の労働時間)があり、家に帰らず、徹夜で仕事をすることもしばしばあった。時には200時間以上の時間外労働になることもあった。
- ある日、下痢、不眠、まぶたの痙攣が止まらない、不安感などの身体症状が出たため、精神科に通院したところ「うつ病」と診断された。
- 数か月の休職後、うつ症状が一旦は落ち着いたため、復職した。1年半程度仕事を続けていたが、業務量が多くなってくるとうつ症状が再燃し、再び休職した。
- 再度の休職後は、うつ症状が良くならず、自殺してしまった。
- 明らかに、会社の働かせ過ぎが原因でうつ病を発症し、自殺してしまったと思われる。会社に損害賠償請求などをしたいと思うが、何からアクションすればよいか分からない。
サポートの流れ
1.労災保険の申請アドバイス
業務によるうつ病など精神疾患の発症については、精神障害の労災認定基準(厚労省HP)を押さえることが重要です。
これによれば、時間外労働が月平均で80時間以上(いわゆる「過労死ライン」)を超えてくると、労災認定されやすくなります。本件は、過労死ラインを優に超えている案件であり、労災認定されることが明らかでしたので、まずは、労災保険に遺族補償給付の申請をすることをアドバイスしました。労災保険申請により、労基署が具体的な労働時間や労働時間以外の業務負担などを調査するので、後に控えている会社への損害賠償請求に関する重要な証拠を作ることができるからです。
※過労死・過労自殺に関する一般的な流れについては、「よくある質問」(過労死やうつ病自殺による事例)もご参照ください。
2.労働時間資料の開示手続き
労災保険へ遺族補償給付申請を行ったところ、予想とおり認定が下りました。そこで、労基署が調査した労働時間の証拠などを取得するため、労働局へ保有個人情報開示請求を行いました。
※保有個人情報開示請求の詳細は、こちら をご参照ください。
労働局から開示された結果を検討すると、
- 最初の休職までの約1年間で平均して100時間以上の時間外労働
- 3ヵ月連続で150時間以上の時間外労働の期間がある
- 200時間超の時間外労働時間が2ヵ月ある
など、異常な労働時間が課されていたことが明らかになりました。
3.相手会社への損害賠償請求
会社は、労働者に対し、その生命・身体・健康を害することのないよう配慮する義務(安全配慮義務)を負いますが(労働安全衛生法65条の3、労働契約法5条)、それは労働者が健康を害さないように労働時間の管理を適切に行なうべきことも意味します。
過労死・過労自殺案件の重要判例である「電通過労死事件」(最判12.3.24民集54.3.1155)も、「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである・・・使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」と明言しています。
本件は、過労死ライン超えの長時間労働が1年以上に渡って常態化しているなど、労働時間に関する安全配慮義務違反が明白な事案でした。そこで、労災保険給付では賄われない損害賠償を求め、会社に損害賠償請求の内容証明郵便を送付しました。
しかし、会社は一度復職していることなどを捉えて「うつ病と自殺との間の因果関係がない」などと主張し、損害賠償を一切拒否したため、裁判での解決を目指し、民事訴訟を提起しました。
4.民事訴訟での闘い
民事訴訟でも会社は、相変わらず、一度復職していることなどを捉えて「うつ病と自殺との間の因果関係がない」などと強硬に主張してきました。
しかし弊所は、以下の点などを丁寧に主張立証していきました。
- 精神医学論文・精神医学教科書なども参照・引用した上で、うつ病は一旦発症すると再発・再燃を繰り返しやすく、自殺リスクが一般人の数倍以上に上がること
- 交通事故⇒外傷⇒外傷の症状固定⇒うつ病の発症⇒自殺という経過を辿っている事案でも、自殺との因果関係が認められている裁判例があること(最判平成5年9月9日判タ832号276頁、神戸地判平成27年9月3日自保ジャーナル1965号23頁)
- 客観的に過重な業務が課されている場合には、使用者側が因果関係を争うことは、ほぼ主張自体失当である旨の裁判官の論文(石村智「労災民事訴訟に関する諸問題について-過労自殺に関する注意義務違反、安全配慮義務違反と相当因果関係を中心として-」判タ1425号30頁)
また、上記2のような異常な労働時間からすれば、会社が責任を逃れることが不当なことは結論的には明らかでしたが、第三者の裁判官からみても、理論的・客観的に裏付けられるように意識して訴訟遂行しました。
解決内容
訴訟活動の結果、裁判所から当方にかなり有利に(会社に責任が認められるように)和解協議を進めていただけました。そして、当方請求額の80%以上である約8300万円の勝訴的和解を勝ち取ることができました。
和解の内容は、以下を踏まえれば、妥当な解決であったといえるでしょう。
- 過労死・過労自殺案件では、控訴審に進むことが多く、数年にわたる厳しい裁判になることも多い中で、訴訟提起から1年程度で解決できたこと
- 訴訟が長引いてしまうと、会社の業績悪化などで倒産して賠償金を払えなくなるリスク(回収不可能リスク)を回避できたこと
- 被災者ご家族に公開の法廷での尋問など無用な負担を負わせずに済んだこと
所感(担当弁護士より)
本件は、過重な労働の末、自殺してしまうという大変不幸な結果となった案件でした。
会社の安全配慮義務違反が明白な案件であっても、「ご家族が亡くなる」というショッキングな現実の前に、気持ちが萎えてしまい、何も行動ができなくなってしまうという方が多くいらっしゃると思います。
本件を振り返ると、このような現実に屈せずに、奥様がアクションを起こしてくださったことで、十分な補償を得られる結果になったと思います。被災者の奥様が面談にいらっしゃった際に、被災者が調子の良かった頃にお子様と映った笑顔の写真を見せてくださいました。これを見て「このような異常な労働を課しておきながら、責任を逃れようと、少しでも損害賠償の負担を小さくしようとする会社を許せない」と強く感じたことが忘れられません。
会社は、損害賠償請求をすると、多額な損害賠償を負担したくないがために、あることないこと、大きいこと小さいことを、あれこれと主張してきました。
しかし、これらの些末な点に惑わされずに「会社の過重な労働のせいで、うつ病を発症し自殺した」という大きな筋を、被災者・被災者ご家族の強い思いと共に、“cool head but warm heart”(冷静な頭、しかし熱い心)の精神で丁寧に主張立証していったことによって、比較的早期の勝訴的和解に繋がったものと実感しています。
労働災害、特にご家族が亡くなられた案件では、労災保険申請、今後の生活再建、証拠集め(会社の安全配慮義務違反を裏付ける証拠、医学的な証拠、会社の反論をつぶす証拠など)、会社との示談交渉、法的手続きの選択・遂行などなど、やるべきことが山ほどあります。
率直に申し上げて、一般の方がこれを行うのは極めて困難ですし、無理に行ったとしてもどこかで落とし穴にはまります。またご家族が亡くなったというショックの中で、これらを行うこと自体、大変な負担といえます。
本件の被災者ご家族のように、ぜひ勇気を出して、弁護士にご相談に来ていただけることを切に願っています。